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屋久島編 16 縄文杉登山 -(11)レンタカー事務所に助けを求め、カニと出会う

  おまわりさんから教えてもらったレンタカー事務所の電話番号は、一般の番号とフリーダイヤルの2つ。あきれたことに、この時点で私は公衆電話でフリーダイヤルは使えないと思い込んでいた。だから10円玉で一般の番号にダイヤルを繰り返した。しかも1枚を残すのみ。

 何度目かで奇跡的につながった時は「やった!これで助かる!」と思った。レンタカー事務所のおじさんが電話口に出た。急いで助けにきてほしい旨を伝えると、
「ナンバーはいくつですか?」と訊いてきた。
おまわりさんと同じ質問だ。わからないと答えて自分の名前を告げるとおじさんは
「あぁー、わかりましたー。」と答えてくれた。途端に、通話は切れた。
10円分の通話が終わってしまった。
(…ほんとに自分だとわかってくれただろうか?)
荒川分かれにいることは伝えたが、このあとどうすればいいのか聞く前に切れてしまった。 このままここで事務所の人が来てくれるのを待っていればいいのだろうか?
いや、もしかしたらちゃんと伝わっていなかったかもしれない。途中で切れたから、またかかってくるのを待っていて、ここへは来ないんじゃないだろうか。
ひとりでいる不安さで、ネガティブな考えばかり大きくなった。

 なんとかもう一度連絡するべきだという結論に達し、地図を広げて他に電話をかけられる場所はないか探した。今居る荒川分かれから2キロ先に「ヤクスギランド」があった。車なら5分の距離である。そこの事務所の電話を借りようと思いたった。
もしレンタカーの人が来てくれるとしても1時間はかかるから、「ヤクスギランド」へ行って戻ってきても十分余裕があると思った。電話に苦戦している間も下山する車が時々通っていたが声をかけようとはしなかった。我ながら人見知りにもほどがある。

 不安は焦りに変わって、早足で舗装された道を進んだ。カーブが続いて先を見通すことができない。そこへ1台のバスが通った。定期便が走っているのを思い出した。けれどこのときは「ヤクスギランド」で頭がいっぱいだった。
(どうしてあのとき…)
早足で歩きながら、自分を責めつつ泣きそうになった。それに追い討ちをかけるように、さっきまでの快晴がウソのように陽が陰りだし、雨がぽつぽつと落ちてきた。

(もうダメだ。このまま遭難して死んじゃうんだ。)
けっこう歩いたはずなのに「ヤクスギランド」はちっとも見えてこない。

 ふと、足元を見たら、「カニ」がいた。
近くの沢からやってきたのか、きれいな淡い緑色をしていた。

 あきらめて戻ることにした。雨はたまに当たるくらいで傘をさすほどでもなかった。
午後5時30分すぎ、荒川分かれの小屋(公衆電話が中にある)に戻ってきた。最後の手段としてバス停の時刻を確認しておいた。上から登山帰りの車が間隔をあけて1台、また1台と下りてきていた。

 ここでやっと私はダメもとでフリーダイヤルをかけてみようと思い立った。電話はあっさりつながった。脱力2度目。
「あー、ケータイに電話したんですけどねー。もうそっちに向かってますからー。水色の車が来たら手を振って止めてください。」
 しばらく後、水色のレンタカー事務所の車はやってきた。おばさんとお兄さんが乗っていた。後部座席に乗せてもらい、自分の車へ向かった。どうやら私とおばさんたちとは登山口ですれ違っていたらしい。
「あの時、声をかければよかったわねぇー。」
私は一見何食わぬ顔をしていたからとても困っていたようには見えなかっただろう。
「けっこうよくあるんですよ。明るくなると忘れてつけっぱなしにしちゃうのね。」

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